高田郁文化財団

この一冊この一冊

自分の本当の気持ちに気づいた一冊

楽天ブックスネットワーク株式会社 吉岡慎二

武王の門

特別な話を書いて欲しいと期待されていないことは分かっているのですが、自分でハードルを上げて思い悩んだ末に一度は別テーマで完成したものの、どうしても違和感を覚え、いっそのこと難しい事は考えずただただ本音を書き綴ろう!と決心しました。

私のこの一冊は、北方謙三「武王の門」です!

この一行を書くまでに途方もない時間がかかりました。

はっきり言って趣味です。

趣味の話は居酒屋での話の種としても相手を選ぶと思っています。それを文章で紹介するとなると、さらに気恥ずかしい思いがしましたが、この物語の壮大さ、鬼気迫る臨場感、読後に胸をひたす感動と哀愁には嘘をつけない!という気持ちが背中を押してくれました。

物語は南北朝争乱時代を舞台に主人公の懐良親王(かねながしんのう)に九州に全く新しい独立国家を建設するという壮大な夢を託し、彼とともに生死を賭した盟友の男たちとの友情、その野望を打ち崩すべく執拗に迫りくる足利幕府との対決を描いた“魂”の物語です。

ここまで来たらもう一度言います。今の自分の歴史・時代小説好きに拍車をかけた一冊は「武王の門」です!!

子どもの頃は、物置に使っていた屋根裏部屋に本棚があるような家で、本に触れる機会は多くありませんでした。その本棚に並んでいた、大河ドラマを見た父が集めたと想像される真田太平記を難読漢字に悪戦苦闘しながらも、ぐいぐい引き込まれて一気に読んだことを覚えています。今思えば歴史・時代小説好きになる始めの一歩だったのだと思います。しかし真田太平記がこの一冊にならなかったのは、歴史好きになるきっかけではありましたが、本を読む習慣は身に付かなかったからです。転機は高校卒業時に本屋でアルバイトを始めたことです。それまで本に興味も知識もなかった私が面接に受かり、本屋で働くなら少しは本を読もうという単純明快な動機から、本を読み始めた時期に出会ったのが「武王の門」でした。主人公への愛着と爽快な物語に一気に引き込まれて、その衝撃から「本は面白い!」と感じた瞬間でした。それから歴史小説愛好家になるまでにはそう時間はかかりませんでした。

私は現在三児の父ですが、自分の子どもの頃の反動か本に関わる仕事をしている影響か、子どもには質のいい物語にたくさん触れて欲しいという願望があり、本を購入するお金は別家計をモットーに成長に合わせて本を渡しています。それも趣味が高じて、歴史に関連する児童文学を薦めていると、小学生高学年の長女が授業では歴史が好きと言ってくれるようになりました。娘との共通の話題として本が非常に役立っています。

特別なエピソードはありませんが、「武王の門」と出会ったことで、私の人生が豊かになったことは間違いありません。

最後に素直に自分の気持ちを書くことができて今は清々しい気分です。

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