私の大切な場所 本屋から宇宙へ
杉岡広子

私は学生時代、本屋でアルバイトをしていた。私が住む田舎町では街の中心に本屋が何軒かあり、友人との待ち合わせ、バスを待つ間、時間を持て余した時など、いつも本屋を利用していた。アルバイトが休みの日でも、空いた時間に一人でフラッと行ける場所は私には本屋しかない。それぐらい私にとっては大切な場所だった。就職してからも、給料日には必ず仕事帰りに本屋に行き、新しい本を買うことが何よりも楽しみだった。あれから数十年経ち、携帯電話が普及してSNSで情報が簡単に手に入り、本屋を利用しなくても友人と簡単に会えるようになった。私自身も本屋に行く機会が少しずつ減り、数軒あった街の本屋も一軒ずつ姿を消してしまった。
本屋の閉店と同時に、読書の習慣をすっかり無くしていた私に、最近、再びゆっくり本を読む機会が与えられた。足の手術で約一ヶ月入院することが決まったのだ。そんな中、手にした一冊の本、それが「宇宙にヒトは住めるのか」だ。若い頃よく読んだ、星新一のショートショートを彷彿させるような内容だが、これはフィクションではない。近い将来、多くの民間人が宇宙に住むことを想定し、いかに住み良い環境にするかを実際に研究している人達を、作者が直接取材し、その研究成果を本にしている。
今の地球は問題だらけ。なかなか夢と希望を持つのが難しい。それなら宇宙に目を向けてみたらどうだろう。なんだか明るい未来が見えてきそうだ。宇宙は無重力だから、足の悪い人達が自由に動くことができるらしい。空気が無いから音も伝わらないので、別の方法で音を伝えなくてはならない。聴覚障害の人も平等に生活できる。地球上の生活から逆転するのだ。なんて夢があるのだろう。
結論から言うと「宇宙にヒトは住める」らしい。でも簡単に、地球と往復する事はできない。時間とお金が大量にかかる。たった5キロの米を運ぶのに片道3日、輸送料が10億円。それで研究者たちは「月面農場」での「月産月消の野菜作り」を目指している。住まいはどうだろう。月の重力は地球の6分の1。人が軽くジャンプしただけで天井に頭を打ちつけてしまう。となると、地球の6倍の高さの天井が必要になる。一見大変そうだが、日々、研究者たちはあらゆる工夫を凝らし、快適な環境作りのために何ができるかを研究し続けている。
宇宙がもし、今、地球が抱えているあらゆる問題を回避し、平和で、みんなが幸せになれる所なら私だって行ってみたい。歳をとったからと疲れている場合ではない。近い将来、不老不死の時代が来るかもしれない。体のあちこちの不調も宇宙に行けば元気になるかもしれない。今は新しい世界に備えて、いつ宇宙に飛び立つ日が来ても対応できるように身体を整えておかなくては。この本は、老若男女、どの世代の人も前向きな気持ちにさせてくれる。 今、世界中の要人達が宇宙に目を向け、助け合いながら一緒に未来の事を考えるなら、各地で起きている戦争もなくなるかもしれない。40年前、星新一の世界にワクワクドキドキしながら引き込まれた気持ちを、もう一度感じさせてもらえた一冊だった。
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