こんなつくり手でありたい
編集者/ライツ社代表取締役 大塚啓志郎

21歳のときに、大学の先輩から「いい本があるねん」と手渡されたのがこの本だった。開くと、右にはページいっぱいに大きな笑顔の写真、左には「夢」をテーマにした作文。それが1歳の赤ちゃんから100歳のおばあちゃんまで、100人分載っている。載っている人はみんな一般人。有名な人は1人もいない。強いていうなら、何かのコマーシャルで大車輪を披露していたあの鉄棒のおじいちゃんくらい。それなのに、10万部も売れているという。
「おおきくなったらかたぐるましておかあさんにくものうえをみせてあげる」という男の子のかわいい夢。「英語を話せるようになりたい」という90歳のおばあちゃんの驚きの夢。どこから読んでもいいのがこの本の特徴だけれど、あるページを開いて、涙が止まらなくなた。17歳の女子高生のページだ。
「高2になっても、確かな夢はまだない。すぐにムリじゃなと諦めてしまうようになった。周りの友達たちは、少しずつ、夢に向かって努力したりしてるのに…。ここから逃げたいって現実逃避してみても、結局、目を開けたら同じ景色で何も変わらない。このまま大人になったら、どうなるんだろうって不安になる。ていうか、どんなんが大人なんじゃろ?手をのばしてもつかめるものは何もなくて、目の前にはウソしかなくて、夢なんてどうやって見つけたらいいのかなんてわかんない。でも、こんな考えに答えが出たのなら、同じように悩んでいる人達を導いてあげたいと思う。それを夢にしたいと思う。
この本は2006年に出た本だけれど、いま読んでも、20年経ったいまでも、40歳になってしまった自分でも、またうなずいてしまう。そして目が、うるんでしまう。1歳から100歳まで、100人が100人たしかな夢を持っているわけではない。キラキラしているわけではない。背伸びしていない夢がそこにはあって、その事実に、読んでいてとても救われる。この本には「説教くささ」が1ミリも存在しないのだ。
21歳のわたしは、こんな本をつくりたいと思って、この本を出した出版社に入社した。そして独立した今も本をつくり続けている。しかし、大人になってわかることだが、おそらく21歳のわたしは「こんな本をつくりたい」と思ったのではなかった。この本の裏側にいる編集者やデザイナーや企画者たちの「まなざし」に憧れて、この出版社に入りたいと思ったのだと思う。
この本に載っているのは100人。しかし実際は、数年かけて3000人もの夢を集め、そこから100人を選ばせていただく、という形でこの本は生まれたそうだ。その選定基準は本書には記されていないが、ページをめくるだけでそのまなざしは伝わってきた。みなさんにもぜひ手に取って、そのまなざしを味わってもらいたい。ハッとすると思う。「こんなつくり手でありたい」と思う工夫が、あちこちに隠されている。
この本を超える本を生み出すことが、いまの私の夢だ。
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