高田郁文化財団

この一冊この一冊

髙田郁をはじめ書店員さんなど本に関わる皆さんが選ぶ「一冊」をリレー形式で紹介いたします

  • 情念と熱意
  • 株式会社八重洲ブックセンター 内田俊明

今思えば信じがたい話だが、1980年代~90年代は「日本の映画はダサい」と巷間言われていた。その「ダサさ」をイメージで代表していたのが、五社英雄が監督した映画だったことを覚えている。 深夜ラジオや雑誌の投稿で、今でいう「あるある」として、日本映画のダサさがよく取り上げられていたが、「やたら女優が乱闘 …続きを読む

「そんなに怒らないでよ」  受話器の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなく友の声だった。バオバブ、という愛称の懐かしい友は、四年前に病死しているはずだった。 「事故でずっと意識不明になっててさ、目が覚めたら、死んだことにされてたのよ。もうびっくりしちゃってさぁ」  記憶にある通りのおっとりとした口調 …続きを読む

一冊の本をとりあげる。 書きはじめる前はワクワクしていたが、いざ書こうとすると一冊だけを選ぶ難しさに、ああでもないこうでもないと悩んでしまう。 ここはひとつ、読んでいないのに特別な一冊について書くことにしよう。  私の父はとても本が好きな人だ。 漫画、小説、詩歌、歴史学から哲学書までなんでも読むし、 …続きを読む

特別な話を書いて欲しいと期待されていないことは分かっているのですが、自分でハードルを上げて思い悩んだ末に一度は別テーマで完成したものの、どうしても違和感を覚え、いっそのこと難しい事は考えずただただ本音を書き綴ろう!と決心しました。 私のこの一冊は、北方謙三「武王の門」です! この一行を書くまでに途方 …続きを読む

今回ご紹介させていただく本『借りの哲学』(太田出版/ナタリー・サルトゥー・ラジュ)はタイトルの通り哲学書です。少しお堅い印象かもしれませんが、自分の出版業界ではたらく人生を大きく意味づけてくれたと思える一冊です。 私が所属している出版販売会社(取次)は、普段は出版社さんと書店さんをお繋ぎすることが仕 …続きを読む

気軽に引き受けてはみたけれど「個人のエピソードを交えて一冊の本を紹介する」というお題は思ったよりも手強くて、パソコンのモニターを見つめながらかれこれ半時間ほど思案している。 もともとぼんやりした性質なのかもしれないが、本のあらすじや装丁、どこの本屋でどう買ったかみたいなことはしつこく憶えているくせに …続きを読む

『アルジャーノンに花束を』を初めて読んだのは、中学生の時でした。 ハンディキャップのある男性チャーリーが、知能発達の手術を受け、天才となるお話です。 当時、今まで見たことがないストーリーに驚き、チャーリーがどんどん変化していく様子に目が離せず夢中で読みました。 今もこの時の感動が忘れられず、私にとっ …続きを読む

  • 心の糧
  • (株)トーハン 元職員 相馬ゆり江

私の本好きの原点は、亡父による独特な毎夜の「読み聞かせ」にあると言っても過言ではない。何しろ文庫本を子供が理解出来るように読み下すものだったのだ。このような親が他にもいらしたらお会いしてみたい。料理上手だった亡母も、また本好きであったため、本を読む事は我家では日常生活として寝食同様あたりまえの事だっ …続きを読む

 昭和40年代に刊行された図書館の本を読んでいたら、当時の市立図書館の分類が掲載されていた。 「1,歴史に学ぶ 2,社会の動き 3,ビジネス 4,婦人・家庭 5,からだと健康 6,心の問題 7,教養を高める 8,レジャーを楽しむ E,随筆・記録 F,小説」  この図書館の分類が例として挙げられている …続きを読む

 その日が近づくと、心が騒ぎ体がウズウズする。 根っからの祭り好きである。 地元の氏神様が祀られている、千二百年の伝統を持つ茨木神社の祭礼は毎年7月14日に斎行れる。 もちろん、氏子の一人として毎年渡御のご奉仕をさせていただいている。 子どもから大人まで、神輿を舁いて朝から晩まで市内氏地を巡行する。 …続きを読む

皆さんの人生で初めて読んだ小説はなんですか? 初めて小説を読んだのは何歳の時ですか? 本との出会い、そのきっかけは人それぞれです。わたしは小さい頃は体も小さく、活発な子供ではなかった為、幼稚園の頃から、運動をするよりも絵本を読んで育ちました。 そんな私が、小説の世界に初めて触れたのは中学1年生。 同 …続きを読む

 桜が大好きだった父が、桜の季節に亡くなってから6年半になります。  高校卒業後、進学のために実家を出て、40年近く、親と離れて暮らしていたので、父がいないという実感は、金婚式を祝ったあとも何年も一緒に暮らしてきた母ほどではないと思います。それでも、時折、さまざまなことを思い出しては涙が出るというこ …続きを読む