高田郁文化財団

この一冊この一冊

髙田郁をはじめ書店員さんなど本に関わる皆さんが選ぶ「一冊」をリレー形式で紹介いたします

金木犀の香りを運ぶやわらかな風、  黄金色の稲穂を波打たせる風、   ポートタワーが見える波止場をわたる風、 どの風もぼくは好きだ。 雲・空・景色と一体となって心の中に残っている。 10代だった頃、深夜放送のラジオから、はっぴいえんどの「風をあつめて」が流れていた。 「風をあつめて」というフレーズが …続きを読む

『孤立』は寂しいが『孤独』でいることは決して悪いことではない。 「1人で遊ぶこと」や「孤独でいること」が寂しくないか?と言ってくる人がよくいるが、1人の時間を過ごすことの”ありがたみ”や奥深さを知らないことは、人としての浅さを露呈することだと個人的には思っている。が、特にそれに言及するつもりはない。 …続きを読む

私が幼少の頃、アニメのキャラクターの絵を描いたビニール靴が大流行していた ビニール靴は男の子主人公のキャラクターはブルー、女の子主人公のキャラクターはピンクと決まっていた。 私が好きだった海のトリトンはブルー 買ってほしいとおねだりした時に母から返ってきた言葉は、ブルーだから男の子ものでしょうという …続きを読む

この作品のゲラを読んだ感想は、「えらいパワフルな新人が出てきたもんやな」だ。 新潮社が「女による女の為のR-18文学賞」受賞作として鳴物入りで、送り出した宮島未奈著の青春小説である。 ゲラが送られてきた理由は、小説の中に弊社「ふたば書房」が出てくるからだ。出版社から、お名前を出していいですか?と確認 …続きを読む

  • 情念と熱意
  • 株式会社八重洲ブックセンター 内田俊明

今思えば信じがたい話だが、1980年代~90年代は「日本の映画はダサい」と巷間言われていた。その「ダサさ」をイメージで代表していたのが、五社英雄が監督した映画だったことを覚えている。 深夜ラジオや雑誌の投稿で、今でいう「あるある」として、日本映画のダサさがよく取り上げられていたが、「やたら女優が乱闘 …続きを読む

「そんなに怒らないでよ」  受話器の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなく友の声だった。バオバブ、という愛称の懐かしい友は、四年前に病死しているはずだった。 「事故でずっと意識不明になっててさ、目が覚めたら、死んだことにされてたのよ。もうびっくりしちゃってさぁ」  記憶にある通りのおっとりとした口調 …続きを読む

一冊の本をとりあげる。 書きはじめる前はワクワクしていたが、いざ書こうとすると一冊だけを選ぶ難しさに、ああでもないこうでもないと悩んでしまう。 ここはひとつ、読んでいないのに特別な一冊について書くことにしよう。  私の父はとても本が好きな人だ。 漫画、小説、詩歌、歴史学から哲学書までなんでも読むし、 …続きを読む

特別な話を書いて欲しいと期待されていないことは分かっているのですが、自分でハードルを上げて思い悩んだ末に一度は別テーマで完成したものの、どうしても違和感を覚え、いっそのこと難しい事は考えずただただ本音を書き綴ろう!と決心しました。 私のこの一冊は、北方謙三「武王の門」です! この一行を書くまでに途方 …続きを読む

今回ご紹介させていただく本『借りの哲学』(太田出版/ナタリー・サルトゥー・ラジュ)はタイトルの通り哲学書です。少しお堅い印象かもしれませんが、自分の出版業界ではたらく人生を大きく意味づけてくれたと思える一冊です。 私が所属している出版販売会社(取次)は、普段は出版社さんと書店さんをお繋ぎすることが仕 …続きを読む

気軽に引き受けてはみたけれど「個人のエピソードを交えて一冊の本を紹介する」というお題は思ったよりも手強くて、パソコンのモニターを見つめながらかれこれ半時間ほど思案している。 もともとぼんやりした性質なのかもしれないが、本のあらすじや装丁、どこの本屋でどう買ったかみたいなことはしつこく憶えているくせに …続きを読む

『アルジャーノンに花束を』を初めて読んだのは、中学生の時でした。 ハンディキャップのある男性チャーリーが、知能発達の手術を受け、天才となるお話です。 当時、今まで見たことがないストーリーに驚き、チャーリーがどんどん変化していく様子に目が離せず夢中で読みました。 今もこの時の感動が忘れられず、私にとっ …続きを読む

  • 心の糧
  • (株)トーハン 元職員 相馬ゆり江

私の本好きの原点は、亡父による独特な毎夜の「読み聞かせ」にあると言っても過言ではない。何しろ文庫本を子供が理解出来るように読み下すものだったのだ。このような親が他にもいらしたらお会いしてみたい。料理上手だった亡母も、また本好きであったため、本を読む事は我家では日常生活として寝食同様あたりまえの事だっ …続きを読む