高田郁文化財団

この一冊この一冊

髙田郁をはじめ書店員さんなど本に関わる皆さんが選ぶ「一冊」をリレー形式で紹介いたします

あなたの最初の本の記憶はどんな作品ですか?私が覚えている、初めての本との出会いは保育園年少組の時の読み聞かせでした。ン十年以上前の子どもの頃の記憶なんて、今となってはほぼないに等しいのですが、この時だけはなぜだか鮮明に覚えているのです。先生が前にいて、その正面に私含め園児が並んでいて、たぶん私は先生 …続きを読む

文筆業、ナレーター、国語科の先生…小学4年生から夢を見、そして叶わなかった「なりたかった職業」の順位。家庭の事情で諦め、せめて「国語科系職業」をと書店員になりました。最初に入社した書店で雑誌担当になり、女性誌の表紙で季節やトレンドを先取りし、一途に本好きな先輩方に囲まれて、書店の仕事が少しずつ楽しく …続きを読む

昭和の時代、私が住んでいた町にも、自転車で行ける範囲に、多くの書店があった。部活動で活躍するクラスメイトを尻目に学校から帰る。カギっ子と呼ばれた私の居場所はあちこちの書店だった。お気に入りは、町で一番大きな精文館書店。音楽や映画、自動車やアニメ、思春期の男の子が興味を持つような雑誌まで、自分の知らな …続きを読む

金木犀の香りを運ぶやわらかな風、  黄金色の稲穂を波打たせる風、   ポートタワーが見える波止場をわたる風、 どの風もぼくは好きだ。 雲・空・景色と一体となって心の中に残っている。 10代だった頃、深夜放送のラジオから、はっぴいえんどの「風をあつめて」が流れていた。 「風をあつめて」というフレーズが …続きを読む

『孤立』は寂しいが『孤独』でいることは決して悪いことではない。 「1人で遊ぶこと」や「孤独でいること」が寂しくないか?と言ってくる人がよくいるが、1人の時間を過ごすことの”ありがたみ”や奥深さを知らないことは、人としての浅さを露呈することだと個人的には思っている。が、特にそれに言及するつもりはない。 …続きを読む

私が幼少の頃、アニメのキャラクターの絵を描いたビニール靴が大流行していた ビニール靴は男の子主人公のキャラクターはブルー、女の子主人公のキャラクターはピンクと決まっていた。 私が好きだった海のトリトンはブルー 買ってほしいとおねだりした時に母から返ってきた言葉は、ブルーだから男の子ものでしょうという …続きを読む

この作品のゲラを読んだ感想は、「えらいパワフルな新人が出てきたもんやな」だ。 新潮社が「女による女の為のR-18文学賞」受賞作として鳴物入りで、送り出した宮島未奈著の青春小説である。 ゲラが送られてきた理由は、小説の中に弊社「ふたば書房」が出てくるからだ。出版社から、お名前を出していいですか?と確認 …続きを読む

  • 情念と熱意
  • 株式会社八重洲ブックセンター 内田俊明

今思えば信じがたい話だが、1980年代~90年代は「日本の映画はダサい」と巷間言われていた。その「ダサさ」をイメージで代表していたのが、五社英雄が監督した映画だったことを覚えている。 深夜ラジオや雑誌の投稿で、今でいう「あるある」として、日本映画のダサさがよく取り上げられていたが、「やたら女優が乱闘 …続きを読む

「そんなに怒らないでよ」  受話器の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなく友の声だった。バオバブ、という愛称の懐かしい友は、四年前に病死しているはずだった。 「事故でずっと意識不明になっててさ、目が覚めたら、死んだことにされてたのよ。もうびっくりしちゃってさぁ」  記憶にある通りのおっとりとした口調 …続きを読む

一冊の本をとりあげる。 書きはじめる前はワクワクしていたが、いざ書こうとすると一冊だけを選ぶ難しさに、ああでもないこうでもないと悩んでしまう。 ここはひとつ、読んでいないのに特別な一冊について書くことにしよう。  私の父はとても本が好きな人だ。 漫画、小説、詩歌、歴史学から哲学書までなんでも読むし、 …続きを読む

特別な話を書いて欲しいと期待されていないことは分かっているのですが、自分でハードルを上げて思い悩んだ末に一度は別テーマで完成したものの、どうしても違和感を覚え、いっそのこと難しい事は考えずただただ本音を書き綴ろう!と決心しました。 私のこの一冊は、北方謙三「武王の門」です! この一行を書くまでに途方 …続きを読む

今回ご紹介させていただく本『借りの哲学』(太田出版/ナタリー・サルトゥー・ラジュ)はタイトルの通り哲学書です。少しお堅い印象かもしれませんが、自分の出版業界ではたらく人生を大きく意味づけてくれたと思える一冊です。 私が所属している出版販売会社(取次)は、普段は出版社さんと書店さんをお繋ぎすることが仕 …続きを読む