深読みしすぎ?運だけじゃない、でも実力だけでもない
株式会社とうこう・あい 藤吉信仁

大人が絵本を読むと、子どもには気づかない妙なリアルさに、不意に心を揺さぶられることがあります。私にとってそんな一冊となった絵本がこちらです。
時代は中世。とある有名な画家のアトリエでの出来事です。主人公のヤンは、将来立派な絵描きになることを夢見る小さな見習いの少年。日中は先輩たちの雑用に追われ、夜には居残って練習を重ねる、そんな日々を送っていました。
ある日、貴族から「最も美しい青色でドレスを描いてほしい」という無茶な注文が入りました。当時の青色は貴重で高価なもの。先輩たちがこぞって材料を探しに飛び出していく中、ヤンは留守番として残されました。
しかし、一人で居残って粛々と仕事をこなすヤンの姿に先生は目を留めます。そして、なんと、ヤンは偶然、本当にたまたまのたまたまに、世紀の大発見となる美しい青色、のちに「プルシャンブルー」と呼ばれる色を誕生させたのです。⠀
「ヤン、すごいやん!!!」⠀というハッピーなお話で、色の史実を描いた絵本です。この素敵な物語を、良いことも悪いことも社会で経験中の私が読んだら、単なる大逆転の成功譚ではなく、「運」と「実力」が重なり合うリアルなドラマに見えました。
目の前にある作業や雑務が、時には面白くなかったり、タイパや効率を重視する時代の中で嫌気がさしたりすることもあります。それでも愚直に向き合うことで身につくスキルがあります。量をこなさないと得られない技術。「量の先に質がある」という理論のことを、ここで私は言っているのだと思います。
そして何より、目の前の仕事に真摯に取り組む姿を、見てくれている人は必ずどこかにいます。人が誰かに仕事を任せるとき、決め手は「信頼」だと私は思います。頼まれた仕事をこなすのは当然のことなので、そこではありません。本当の信頼は、誰も見ていないような小さな仕事もバカにせず、全力で取り組む姿から生まれると私は思います。自分にそれができているか、それを見越した打算的な人間か、と言われたらわかりませんが、人に任せる立場になって考えたらそう思うのです。
ただし、「実力」だけでなく「運」も必要です。ヤンが先生と二人きりになる機会を得たのも、下っ端ゆえに置いていかれたという、ネガティブから生まれたある種の幸運でした。
けれど、せっかく巡ってきた運も、普段から仕事を雑にしていたら、それも見ている人は見ているのです…。チャンスを自分のものにできたのは、彼が毎日、アトリエの隅でひたむきに仕事をしていたからなのです。これが私がヤンが大好きな理由です。
「絵本一冊で、こんなことを考えるなんて深読みしすぎだろうか…? 作者はそんな意図だったのだろうか?」と自分でも苦笑してしまいますが、働くことの本質を問いかけてくれるこの絵本が私は愛おしくてたまらないのです。⠀
他の大人の方がこの物語に触れたら、一体どんな景色が見えるのか。気になって仕方がありません。
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