高田郁文化財団

この一冊この一冊

ページの向こうの縁  ― 会えて、嬉しかった ―

図書館司書 さすらいのひよこ

亡国のイージス

 「よく見ろ、日本人。これが戦争だ。」

『亡国のイージス』のこのセリフに、当時、国防とは何か?平和とは何か?そして、自分は何のために生き、どう生きたいのかを考えさせられた。
 帝国海軍に所属していた祖父は、戦時中に艦上で負傷している。それにもかかわらず、私は戦争をどこか遠いものとして生きてきた。作中で語られる「平和ボケした日本人」そのものである。
 この作品では、理不尽にも多くの命が奪われていく。誰かの親であり、子であり、友人であり、恋人である人たちが突然失われる場面に、強い痛みと憤りを覚えた。一方で、極限状態の中でも仲間を思う自衛官たちの姿には胸を打たれ、特に先任伍長の不器用で真っ直ぐな優しさには、人の温かさと強さを感じ、救われる思いがした。
 軍事用語や艦船、ミサイルの名前など、さっぱりわからないながらもページをめくる手は止まらず、調べるより先に物語に引き込まれていった。
 映画化もされているが、登場人物たちの背景や葛藤、細やかな心理描写は、小説だからこそ味わえる魅力だと思う。

 この作品を最初に薦めてくれたのは、今は亡き父だった。「面白いよ」と手渡され、夢中になって読んだ。その後も父と福井晴敏作品を読み、作品同士で人物や世界観が繋がっていく面白さに惹かれていった。


 そして、この『亡国のイージス』は、人との縁まで繋いでくれた。
 夫と初めて好きな本の話をした時、私がこの作品名を挙げると食いついてきたのである。きっと、夫が私に興味を持った瞬間だったのだと思う。
 父が作品を通して、夫への縁を結んでくれたように感じている。

 現在、私は大学図書館で司書をしている。これまで公共図書館や美術館図書室、企業図書館などで、利用者と本を繋ぐ仕事をしてきた。
 両親は読書家で、家の本棚にはずらりと本が並んでいた。幼い頃には母が読み聞かせをしてくれ、小学生の頃には祖父から世界名作集を贈られた。大人になってからも、家族全員が居間でそれぞれ本を読んでいるような家庭だった。
 私が本に携わる仕事をしているのは、とても自然なことなのかもしれない。

 3月まで、父の母校でもある大学図書館でかけがえのない仲間と出会い、やり甲斐に満ちた3年間を過ごした。4月から新しい職場に移り、これまでとは異なる業務に向き合う中で、自分は何をして生きたいのかを考えるようになった。
 そんな時に再読した『亡国のイージス』は、平和を当たり前と思わないこと、そして本との出会いや人との縁を大切にすることを改めて教えてくれた。
 出会いは、誰かの人生を支えることがある。

 私は司書として、利用者にも目当ての一冊だけでなく、思いがけない本との出会いを楽しんでほしいと願っている。
 多くの人に「会えて、嬉しかった」(作中のセリフ)と思えるような良い縁が続いていくように、これからも本と人を繋ぎ続けていきたい。

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