夢のルーツは、今も本箱に
十文字学園女子大学 草野美保
子どもの頃、友達と遊んだり習い事に通うなど、それなりに忙しく過ごしてはいたが、読書にはいくらでも費やせるほど、私の時間はたっぷりあった。年齢によっていくつかのマイブームはあったが、記憶をたどってみると最初に惹かれたのは外国の民話・神話や冒険(旅)物語だったように思う。ことにお気に入りだったのは、ロシア・ウラル地方の民話『まほうの石の花』(バジョーフの『孔雀石の小箱』として知られている作品)だ。
模様が入った緑色の「くじゃく石」で工芸品を作る職人ダニーラ。若くして称賛を受けながらも満足できず、真実の美を知って、もっと素晴らしい石細工を作りたいと思い詰めた彼は、師匠である養父や恋人を置いて、へび山の祭りの日にしか咲かないといわれる「石の花」を見に行ってしまう。まるで神隠しにあったようなダニーラを恋人のカーチャは自らも石細工を覚えながら待ち続けるが、最後はへび山の女王に直談判し、二人で元の世界へ戻ってくるというハッピーエンド(本来続きはあるが、本書ではここまで)のお話である。
このような世界の民話がなぜ好きだったのだろうとあらためて考えてみた。子ども向けの本には挿絵もあって、登場人物の民族衣装や家、生活の様子(とくに食べもの)などが描かれており、まだ見ぬ外国へいつか行ってみたいという興味に繋がっていったのだろう。この絵本には神秘的な「石の花」をはじめ、質素な職人の部屋や食事、ルパシカを着たダニーラがキノコの生えている森で遊ぶ子ども時代、そしてサラファンに冠とヴェールをかぶったへび山の女王などが描かれており、ロシアという国の一つのイメージを強く私に刻みつけた。
大人になってからは、よほど楽しみにしている本が刊行された時を除けば、読書は日常的に楽しむことから、資料として目を通す作業のようになってしまった。その代わりといってはなんだが、子ども時代の夢を果たすべく海外へ行き、現地の人々の生活を見たり、ローカルフードを楽しんだりするようになった。それは幸せなことに、現在の自分の仕事と結びついている。そう考えると私の場合、入れ替わりを繰り返してきた本箱の中で今でも定位置にある本たちは、子ども時代からぼんやりと好きだったことのルーツなのかもしれない。
旅行した国は今のところ二十数か国だが、これからも可能な限りいろいろな地域を訪れてみたい。その中にはまだ行ったことのない中東の国々やロシアも含まれている。日々ニュースを見ながら、実現する日が一日も早く来ることを私は心から願っている。
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