高田郁文化財団

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権威を疑ってみる

株式会社双葉社 杉山敦夫

首木の民

 財務省によりますと、国債とか借入金とか、その他いろいろ合わせますと、日本の、いわゆる”国の借金”は、2024年3月末の時点で1300兆円近くになるそうで。(2024年5月10日付のNHKのニュースサイトより)

 国民ひとりあたま1000万円超の借金を背負う国などという言い方もあり、税収はまったく足りず、増税待ったなし!我が日本の財政は、その厳しさを一段と増しているそうです。

 また増税かぁ。。。
私自身、その言説を深く考えることもなく、漠たる不安、不満、嫌悪。そんな思いを募らせるだけのひとりでありました。この『首木の民』(誉田哲也 著)に出会うまでは。

 本作はネット界隈で「警察小説の皮を被った経済小説」などと評されているみたいです。
言い得て妙です!

 公務執行妨害で逮捕された、とある大学の客員教授・久和秀昭。「ありとあらゆる公務員を信用しない」と言って憚らぬ異様な態度。そんな彼、実は元財務官僚で、気鋭の経済政策通でもあり、口を衝いて出る言葉の数々は、極めて難解、時に突飛ながらも、魅力的かつ示唆に富み、取り調べを行う刑事・佐久間龍平とのあいだに奇妙な絆を結ぶこととなる。そして彼らは次第に、巻き込まれた事件に端を発し、日本の財政の「真実」に言及することに!

 この物語は私に訴えかけてくるようです。「あんた、ホントに考えて生きてるかい? どこぞの誰かが、したり顔で言ってのける常識みたいなもの、鵜吞みにして、分かったような顔してやしないかい?」と。

 処理しきれないほどの情報の洪水のなか、その真偽に思いを巡らすこともなく、流れに乗っかるだけの「思考停止」の日々を繰り返す自分。本当にまずいなあと。

 本書との向き合いは、「識者」とか「権威」とか「プロフェッショナル」とか。そういう類を疑ってみる。自分のアタマで考えてみる。その大事さ、大切さを再認識させてくれる読書体験となりました。

 日本の財政は、支出に対して全く見合わぬ収入しかなく、さりとて借金を増やす国債の増発も憚られ、頼みの綱は「増税」あるのみ! 私たちは重さを増し続ける税と、納付義務に憤りつつも、財務省の繰り出すこのロジックについては、どうも妄信してしまっている。
経済・財政の権威たる財務省が言うことに、まさか「嘘」はないだろうと・・・ 
そんな私たちの姿は、あたかも首木を打たれ、不自由さを抱え役務遂行を強いられ続ける、農場の牛馬のようかも。まさしく「首木の民」。

 どうやらこの国には「愚民は愚民のまま、問題意識など持たないでいてくれたほうが都合がよい」と、考えている人がいるようです。それも、世を統べるけっこうな立場にいらっしゃる方々の中に。

 見えない首木を嵌められたまま、あるいは首木を嵌められていることにすら気づかない多くの民の暮らす国。この国がそれでよいワケがないですよね。少なくとも私は御免被りたいです。容易に外せぬ枷であろうとも、抗って生きる気概と覚悟くらいは持ちたいものだなあと。

 「国民総思考停止社会化」の加速を、ひしひしと感じてしまう昨今。そんな気持ちにさせられる1冊でありました。

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