高田郁文化財団

この一冊この一冊

わたしの終わらないぼうけん

紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子

エルマーのぼうけん

あなたの最初の本の記憶はどんな作品ですか?
私が覚えている、初めての本との出会いは保育園年少組の時の読み聞かせでした。
ン十年以上前の子どもの頃の記憶なんて、今となってはほぼないに等しいのですが、この時だけはなぜだか鮮明に覚えているのです。先生が前にいて、その正面に私含め園児が並んでいて、たぶん私は先生の真ん前に座っていたはずです。そして先生が「エルマーのぼうけん」を読み始めました・・・

ある雨の夜、エルマーは、年取ったのらねこから、「どうぶつ島」に捕らえられているかわいそうなりゅうの話を聞きます。ちっちゃな子どものりゅうが、ジャングルの猛獣たちに捕まえられて、川を渡るために働かされているというのです。エルマーは、すぐに助けに行こうと決心し、旅の準備にとりかかります。

自分と同じような子どもが、りゅうの子どもを助けるために冒険の旅に出ることにとてもワクワクしましたし、リュックサックにつめたものがチューインガムやぼうつきキャンディー、歯ブラシなどおおよそ冒険には似つかわしくない、でも子どもにとってはとても身近なものばかりで、それがどう冒険にいかされるのか、最後の最後まで夢中になって聞いていました。あれがそんな風に使われるなんて!予想もつかないような展開に、大人が読んでも、きっと新鮮な驚きとともに胸躍ることでしょう。

私の両親は特に熱心な本読みではなく、実用書などを除けばあまり本がない家でした。 小さい頃に絵本などを読み聞かせてもらったことも(あるかもしれませんが)記憶にはありません。そんな家庭で育った私が、本好きになって、その後書店員となり、ご縁があってこちらに拙い文章を書くことになったのも、あの日あの時「エルマーのぼうけん」に出会ったからだとしたら―。私の〈本をめぐるぼうけん〉は、あの時からはじまったのかもしれません。これからもリュックサックにいろんな思いをつめこんで、〈本をめぐるぼうけん〉をし続けていきたいと思います。

バックナンバーをみる