高田郁文化財団

この一冊この一冊

今昔もの語り

クミS-T (元書店員)

365日のおかず百科

文筆業、ナレーター、国語科の先生…小学4年生から夢を見、そして叶わなかった「なりたかった職業」の順位。
家庭の事情で諦め、せめて「国語科系職業」をと書店員になりました。
最初に入社した書店で雑誌担当になり、女性誌の表紙で季節やトレンドを先取りし、一途に本好きな先輩方に囲まれて、書店の仕事が少しずつ楽しくなっていきました。
その頃、出版物の新鋭として「MOOK」が発売となりました。
MOOKとは、雑誌(Magazine)の判型で、返本期限を持たない書籍(BOOK)の形態を合わせたものと先輩。
そんなある日、発売されたのが「365日のおかず百科」でした。
昭和55年(1980年)のことです。
1年間分、毎日の日付でレシピが並び、節句などの行事料理はもちろん、季節ごとの旬の食材など情報が満載で、私は「いつか…のために」と一冊購入し、毎日献立に悩んでいた母にも贈りました。
母は私たち子どもが独立するまで、私は子どもたちの食生活の為に毎日必ずページをめくっていたので、母のも私のも糸が切れてページがほつれ、汚れ防止についていたビニールのカバーでやっと本の形を保っている状態になっていましたが、大切に使い続けていました。
「この本は、もう手に入らないんだよね?」と母。
「だね。これ以上壊さないようにするしかないね」
自分の選書が、お客様に役立つことに書店員の誇りも感じられて、やっと「書店員が天職」と肯定できた頃でした。
そんなある日、主婦の友社90周年企画で27年ぶりに復刊されたのです。
平成19年(2007年)のことです。
初版は新入社員だった書店で、復刊は勇退の仕方を考え始めた書店で仕掛け販売をしました。 
電子レンジもオーブンも使わない、時間と手間をかけて作る料理。旬の野菜が明確ではなくなって来ている昨今。昔は庶民の味方だったのに、今は手が届かない食材。
この料理本のレトロ感に、書店員歴の長さを重ねました。
時代は流れ、変化していきます。
それでも、変化しないもの、変化してほしくないもの、変化させてはならないものは守り続けてほしいと思っています。

結果、書店の新入社員になってから43年、育児期間を除いて36年間の書店員人生を終えた私は今、小中学校の図書室に納める本の傷み防止カバーを貼る仕事をしています。
毎日、伝記や小説、絵本、図鑑などを手に「ボロボロになるまで手にとってもらえますように」と願いながら。 そして、多方面にわたり激変する今を生きる子どもたちが、生涯忘れない「この一冊」と出会えますように。 

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