「〜らしさ」って?
水嶋書房くずは駅店 枡田愛
私が幼少の頃、アニメのキャラクターの絵を描いたビニール靴が大流行していた
ビニール靴は男の子主人公のキャラクターはブルー、女の子主人公のキャラクターはピンクと決まっていた。
私が好きだった海のトリトンはブルー
買ってほしいとおねだりした時に母から返ってきた言葉は、ブルーだから男の子ものでしょうという言葉だった。
ブルーが男の子、ピンクが女の子というのを誰もが当たり前に受け取っていた時代であった。
今から思うとなぜ誰もなんでだろうと思わなかったのか不思議だ
紹介する「水を縫う」は、大阪在住の作家、寺地はるなさんの作品
ひとつの家族それぞれが主人公となる6つの連作短編集だ。
第1章は高校1年生の清澄が語り手
人付き合いはあまり得意ではない。小さな頃から縫い物をする祖母のそばにいたからか、刺繍がとても好きで、高校で手芸部に入部しようか悩む。学校では女子力高すぎ男子と呼ばれ、母からも男の子らしくないからやめときと言われる。
ここでまず「〜らしさ」という、親世代、誰もが気にもとめずに使っていた言葉がでてくる。
第2章は姉の水青
小さな時に性被害にあった経験から「かわいい」装いを避け続ける
かわいいという言葉の対象が人なのか、服なのか、それが自分のせいなのか悩む水青。
信頼する婚約者と結婚式の相談をする中で、清澄が水青の好みのウエディングドレスを作ると提案、水青も了承する。
第3章は母のさつ子、第4章は祖母の文枝と語り手は代わり、第5章ここで離婚している父の全(ぜん)かと思いきや、全の雇い主、縫製会社の社長 黒田が語り手
これがまたたまらなくいい
黒田は全の代わりに子供2人の養育費を毎月渡しに通う。清澄との付き合いの中で黒田自身は父親代わりと思っているが、ある日、清澄から全にウエディングドレス制作を手伝ってもらうよう頼んでほしいと依頼を受ける。
水青と接することを逃げ続けていた全のひとことがグッとくる。
「本人が着とっておちつかへんような服はあかん。自分で自分が嫌いになる。それは良うない」
見ている黒田はやはり本物の家族とは違うのだと思ってしまう。
しかし、清澄から出てくる言葉で読者の涙腺は崩壊する。
「お父さんの家族は黒田さんやで。毎日一緒にごはん食べてて、心配とかしてくれて。そういうのを家族って呼ぶんちゃうかな」
最終章ではそれぞれが普通やあるべき姿から解き放たれていく姿が描かれる。
女の子は赤、男の子は青という時代は終わった。
家族の形態も変わった。
血が繋がってるだけが家族ではない。型にはまらなくていい。
裁縫や家事に長けているのが女らしさ、機械や数字に強いのが男らしさみたいな考え方はまだまだ強く残っている。しかし、これからの社会、こんなのはおかしい、変えるべきだと気づく人がどんどん増え、より自分らしく、思うように、生きる方向を決められる世の中になっていけばいいと思う。
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