高田郁文化財団

この一冊この一冊

島下郡の祇園祭

堀 廣旭堂 堀 博明

古都

 その日が近づくと、心が騒ぎ体がウズウズする。

根っからの祭り好きである。

地元の氏神様が祀られている、千二百年の伝統を持つ茨木神社の祭礼は毎年7月14日に斎行れる。

もちろん、氏子の一人として毎年渡御のご奉仕をさせていただいている。

子どもから大人まで、神輿を舁いて朝から晩まで市内氏地を巡行する。

暗くなってからの宮入は、参道にも人出が増え、大いに盛り上がる。

「島下郡の祇園祭」と呼ばれ、江戸時代から300年以上も続いている。

そう。

あの第1回大阪ほんま本大賞受賞作(当時はOsakaBookOneProject選定作と呼ばれていた)の「銀二貫」で、主人公 松吉が寒天づくりの修行に行くのが島上郡 原村だ。

最初に読んだときは、「お隣さんやん!」と思わず心の中で突っ込んだ。

髙田郁さんに初めてお会いした時は、失礼にも「島下郡の堀廣旭堂です!」とへんな挨拶をしてしまった。

お恥ずかしい。

 茨木神社の祭礼が終わると、いよいよ京都の祇園祭が本格的に始まる。

渡御の熱も冷めやらぬ間に、また次の祭りへと心が躍る。

祇園祭の見どころは、山鉾巡行だと思われがちだが、実は神輿渡御が熱い。

山鉾巡行が終わった7月17日の前祭の夕刻に、神幸祭が斎行される。

主祭神の素戔嗚尊(スサノヲノミコト)、櫛稲田姫命(クシナダヒメノミコト)、八柱御子神(ヤハシラノミコガミ)がお乗りになる三基の神輿が八坂神社正面石段下に集まった光景は、なんとも勇壮で美しい。

それぞれが決まった順路を巡行し、深夜に四条寺町の御旅所へと納められる。

7月24日の還幸祭で宮入を迎えるまでは、飾られた神輿を観ることが出来る。

山鉾巡行しかご覧になってない方には、ぜひおすすめしたい。

 さて、皆さまからバトンを受け継いだ「この1冊」だが、同じ茨木市民である川端康成の作品をご紹介したい。

川端康成は、堀廣旭堂とも縁が深く、いつもツケで本を買っていた。

川端康成「古都」

京都が、舞台である。

何不自由なく育てられた呉服問屋の娘 千重子が自分は捨子だと知りながらも、幸せに暮らしていく中で、何か物足りなさを感じている。

ある時、千重子は祇園祭宵山の夜に自分とそっくりな娘と、四条寺町の御旅所の前で出会う。幼い頃生き別れた双子の妹 苗子である。

とても、印象的なシーンだ。

苗子は、北山杉の里で暮らしており、初めて出会った双子の姉の千重子とは、身分の違いを感じ取ってしまう。

そこから二人の運命は動き出す。

 川端は、「古都」を執筆中、精神的に追いつめられていたのか、睡眠薬が手放せない状態だったらしい。

しかしそんなことは、いっさい感じさせないほど、すべての描写が美しい。

特に、北山杉がすばらしい。

私の大好きな、東山魁夷が「古都」の口絵を描いている。

実は、「古都」を書き終わった後、薬の禁断症状で入院した川端を見舞った際、魁夷が文化勲章のお祝いに最終章のタイトルにちなんで描いた作品「冬の花」を川端に贈った。

作中の青々とした、北山杉が描かれている。

川端は、「病室で日毎ながめていると、近づく春の光りが明るくなるとともに、この絵の杉のみどり色も明るくなって来た。」と大変喜び、許可なく最終話の口絵にしたという。

後に、魁夷は川端が切願して京都の四季を描いた「京洛四季」を制作している。

そのうちの1点、「北山初雪」は「冬の花」と同じ構図で、真っ白な雪に染まった北山杉が描かれている。

その作品は、日本人初のノーベル文学賞受賞のお祝いとして、川端に贈られている。

京都ガイド本としても楽しめる、「古都」。

東山魁夷とともに、ご堪能下さい。

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