高田郁文化財団

この一冊この一冊

人生で最初に出会った小説

石橋 俊幸

王都炎上

皆さんの人生で初めて読んだ小説はなんですか?

初めて小説を読んだのは何歳の時ですか?

本との出会い、そのきっかけは人それぞれです。
わたしは小さい頃は体も小さく、活発な子供ではなかった為、幼稚園の頃から、運動をするよりも絵本を読んで育ちました。

そんな私が、小説の世界に初めて触れたのは中学1年生。

同級生の友人から勧められたのがきっかけでした。

元々、偉人の伝記が好きで、歴史物に興味はありましたので、ファンタジーとはいえ、古代ペルシャ時代をベースにした物語にすんなり入り込む事ができました。

当時、表紙や挿絵のイラストを担当されていたのが、大ヒットゲームシリーズのキャラクターデザインをされていました、天野喜孝さんだったところも、興味をもったきっかけの一つでした。

人生で初めて出会った一冊目の小説。
何かおすすめを教えて、と言われたら。この作品を勧めたいところではありますが、ファンタジーの軍記物であり、万人受けはしないかもと思い、未だ人に勧めた事はありません。 
大陸の中心に位置し、人々の往来も盛んで、文化、経済の中心である大国パルスの王太子として生まれたアルスラーン。

物語の始まりは、アルスラーンの父、アンドラゴラス王の治世の時代、大陸公路に君臨するパルス王国は不敗の騎兵隊を持つ強国だったが、蛮族ルシタニアの侵攻を受け、味方の裏切りによって滅亡の危機に瀕する。戦いに敗れ、王都を落ち延びた王太子アルスラーンは、無敵の騎士ダリューンや天才軍師ナルサスの助けを借りて、故国奪還に乗り出す。

奴隷制等の厳しい身分制度のある時代の中で、王太子という恵まれた高位の身分でありながら、人種・身分に関わらず、分け隔てなく全ての人に誠実に接する主人公の元に様々な、人種・身分の仲間達がそれぞれの思いから、忠誠を誓い集まってゆく。普段使わない、言い回しや漢字に苦労しながらも、個性的で魅力溢れるキャラクター達とテンポのいい物語の展開に引き込まれ、どんどん続きが読みたくなりました。

特に、天才軍師ナルサスの軍略は奇想天外で、圧倒的に不利な状況であっても、活路を見出し勝利に導いていく。少数が大群を翻弄し勝利していく様は、読んでいて実に小気味よく、爽快です。
これがこの小説に引き込まれる要因の一つになっています。

人種・身分・宗教の違いに関わらず、全ての人に平等な世界。

全ての人が分かり合える事など有り得ない。
世界から、対立も戦争も決してなくならない。
それでも、青臭い理想を実現する為に、常に戦いの中に身を置き困難に立ち向かっていく主人公に物語に出てくる仲間たちと同様に魅力を感じ、惹かれていきました。
毎回読み終わった時に、早く続きが読みたい!と強く思ったことを今も覚えています。友人の勧めがなければこの本には出会ってなかったかもしれません。出会った日から物語が完結するまでに実に26年。結末は決して望んだものではありませんでしたが、だとしても、その後の人生に大きな影響を与えた一冊であることに間違いありません。

バックナンバーをみる