高田郁文化財団

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本屋さんと本の問屋の仕事

日本出版販売(株) 椎木 康智

仕事で大切なことはすべて 尼崎の小さな本屋で学んだ

この財団の活動を閲覧される皆様は、恐らく髙田郁さんのファンの方々や、読書を趣味にする方が多いのではないかと思います。というか、勝手に仮定して進めさせて頂きますね。

因みに、私は大学を卒業後34年間 本・雑誌の流通に関与する取次会社(本の問屋的な会社)に勤務しており、髙田先生とはある企画の販売・運営担当として参加させて頂いてからのお付き合いとなります。

さて、私が勤務する取次会社:本・雑誌の流通業というのは、読書家の方々でもなかなか馴染みのない世界ではないでしょうか。ネット書店の台頭や、電子書籍の拡大で、少なくなったとは言え、リアルの書店さんの軒数は未だ全国に12,000軒程度あります。ネット書店への流通を含めて、このリアルな書店様に本・雑誌を日本全国津々浦々にお届けするのが我々取次会社の役割であります。

さて、前置きはさておき今回ご紹介する「仕事で大切なことはすべて 尼崎の小さな本屋で学んだ」:ポプラ社は取次会社に入社した新人営業マンの女性が、仕事に悩み、小林書店という町の本屋さんを担当することで、仕事に従事する心構えをつかみ、成長していくビルディングズロマンであります。

実際に小林書店さんは尼崎の立花商店街にありますし、登場する小林由美子さんは、リアルにいらっしゃいます。また、作中の主人公の女性にはモデルが居て、私の元部下の女性でした。

*因みに私も作中人物のモデル上司として登場したりします。

この本の何がオススメかと言いますと、先ほどの黒子会社の新入社員が成長していくドラマなのですが、取次会社の営業マンが主人公というのは多分初めての設定で、読み進む中で出版流通のあらましもご理解いただける構成になっています。

実際、作中のエピソードは、実話に近いものですので、リアリティもあります。

そして何より、作中で紹介される小林由美子さんと、そのご主人の言葉!めちゃくちゃいいんです。

私も仕事上で、何度も同じ話を小林由美子さんから聞く機会がありました。いいですか、みなさん、同じ話を聞いているのに、毎回感動して涙ぐむのです。50歳も越えた男が・・・。

作中で小林由美子さんが話す内容は、全て仕事の基本の話です。大型書店が乱立する昨今、決して大きな書店ではない小林書店がどんな苦労や工夫をして乗り越えてきたか、商売の大切さとは何か、信頼とはなにか、感謝とは何かを真っすぐに伝え、真っすぐに心に届く内容です。小林由美子さんの話すパート、これ実は全部実話なんです。本の体裁も完全実話部分が別フォントになっているので、気づく方もいらっしゃるかも。

私が、小林書店さんの営業担当をさせて頂いていたころ、仕事に悩んだ若手を、小林書店さんによく連れていったものです。大袈裟でも・お世辞でもなく、みんな元気になりました。仕事に前向きな若手人材に生まれ変わりました。小林書店さんは私にとって、野村再生工場(小林再生工場ですね)でもありました。

私がくどくどいうまでもなく、尼崎まで行かずともこの本を読めば、小説を読み進む中で小林由美子さんとご主人のお話しが聞ける機会を持てます。

みなさん、騙されたと思ってぜひご一読を。

他にも、この本の原作ではなく、「まちの本屋」という小林書店さんをノンフィクションで撮り続けたドキュメンタリー映画が2020年に製作され、全国のミニシアターで公開されています。

お近くの町でも上映しているかもしれません。こちらも是非。

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