~愛と勇気が 友達さ~
走る本屋さん高久書店 高木久直
やなせたかしといえば、多くの方が真っ先に思い浮かべるのは「アンパンマン」ではないだろうか。同じく私も、やなせ作品との出会いは「キンダーおはなしえほん」の頃の あんぱんまんであり、幼心にその主人公に宿る異質なカッコよさに魅了された一人である。正義は正義でも、悪の対象は空腹であって、お腹を空かせて倒れそうな人の元へ飛んで行っては、あんぱんで出来た顔を食べさせる。顔が半分になっても、三日月になっても、果ては無くなっても空腹な人を救う風変りなヒーローに驚かされた。その後、80年代のアニメ化をきっかけに、あんぱんまんはアンパンマンへ やや変容し、国民的ヒーローになっていく。
あんぱんまんと出会った同じ頃、幼稚園の本棚にみつけたのが「やさしいライオン」だった。表紙には、やなせたかしとあったから、あんぱんまんを書いた人の別の作品であることは容易に理解できた。興味本位で一ページめくり、二ページめくり、そして読み終えるころにはワンワンと泣き出してしまった。何があったのかと、あわてて先生が駆けつけたのだから、あの時の感情の高ぶりは忘れることが出来ない。
みなしごライオンのブルブルを献身的に育てる母犬のむくむく。むくむく の優しさを一身に受けながら、すくすくと育っていくブルブル。やがてブルブルは立派な雄々しいライオンへと成長を遂げる。離れ離れに暮らすことになっても、母を忘れられずに会いたさを募らせる日々。ある日、ブルブルは母に会いたい一心で檻を破り、脱走をしてしまう。年老いた むくむく を見つけ感動の再会を果たしたものの、追いかけてきた人間たちに撃ち殺されてしまう。本当は、とってもやさしいライオンなのに・・・。
悲しい結末ながら、命の尊さや、種族を超えた愛の存在や、他人を見た目で判断することの危うさ、世の中の理不尽さなどを子どもたちにも分かりやすく伝える物語になっている。
やなせ作品に共通して言えるのは、読者に対する押しつけがましさではなく、自ずと誰もが気付くように描かれる世界観は、まさに物語絵本の醍醐味をド直球で行っている。
やなせたかしは その後も「キラキラ」や「チリンのすず」などのように、結末が悲しい作品を描き続けている。ままならない世を生きる我々に、彼が伝えようとしたテーマは「愛と勇気」であり、その根底にはいつも「正義」とは何かをか問う姿勢が見えるのである。
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